Kiss 1. Le Petit Prince (星の王子様)

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書類鞄の中に自前のラップトップPCを入れて、そ知らぬ顔をして化粧室を出た。 6階の男子トイレの前を通過したが、誰も姿がなく、ロッカールームも無人で静まり返っていた、ホッと胸を撫で下ろす。 エレベーターホールへと立ち、 エレベーターのボタンを押すまで、背後にいる影に気づかなかった。 「佐藤」 「ひ!!」 思わず背後から聞こえた馴染みのある声に、悲鳴を上げた。 「リ!!...リーダー」 細い紺色のフレーム眼鏡を掛けた、東雲 明夜(しののめ・あきや) 獣が爪先で抉ったかのような鋭いぎざぎざとしたカーブを描く柄が印象的な眼鏡のエッジの強さよりも、さらに鋭い切れ長の瞳がのぞかせている。 口元には、なにやら面白いものでも発見したかのような、 狡猾な笑みを浮かべていた。 経理部のキツネ。 目つきが異様に鋭く、動物並みに嗅覚も鋭い。 そして、私を奴隷のように扱う鬼上司。 なんでまた、彼に会ってしまうんだか....。 「今...何時でしょうか?佐藤舞さん」 「え、えーと....只今日本はですね...」 腕時計を眺めようと袖をめくった。 途端に背後から後頭部をポカリと殴られた。 「った!暴力反対!」 「なんだと? おまえ、仕事抜け出して一体何やってんだ?」 「え?お先に休憩とらせていただきまーっすって、 村山さんに言いましたけど」 「俺は聞いてない」 「ちゃんといいました!」 「オ・レ・は、聞いてない」 ”俺”を強調して再度、ねめつけるように私を見下す上司に 何も言い返せずパクパクと口を金魚のように動かした。
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