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その瞬間、
パワハラ=依願退職願いの
白い紙に書かれた筆文字が頭に浮かび、
深々と頭を下げた。
「...ご.ごめんなさぁ~い!!言い過ぎました!!」
謝罪を述べたが、沈黙は続いたままだ。
被さった前髪の隙間から上司の冷酷な表情を盗み見る。
相変わらず、つんと尖った三角の瞳が眼鏡の奥から覗いていた。
「......今日は此処で終わり。」
「え?」
「もう帰っていい。」
ええ?そんなにグサリとするひと言を言っちゃったってこと???
泣きべそをかきそうになりつつも、顔を上げた。
「まだ、1年分も終ってませんが?
頑張りますんでやらせてください!」
「1時間経った。」
「へ?」
時計を指差しこの資料室へ来てから1時間が経過していたことを告げた。
「お前が、サボった時間分消化させただけだ。
これ以上残っても仕方が無いだろ、
今日は帰れよ。彼氏が待ってんだろ?」
....待ってないですが......
思わぬ言葉を受けて、目を瞬いていると、
「しっし」
掌を振り、追い出そうとする上司が、
もう話は無いとでも言うように、
資料室の奥へと進むところだった。
その背中に再度尋ねる。
「いいんですか?本当に帰りますけど!」
「今日だけだぞ、あ、残業つけるなよ?ペナルティなんだから。」
「....うっ...ハイ。」
細かい指摘を入れた上司に、心の中で舌打ちをする。
「あ....今、俺のこと、ケチだと思っただろ?」
「おも、...ってなんか..、」
心の中を覗かれ、慌てふためいた。
「正直に言えよ、」
「...ちょっとだけ...思いました。」
溜め息混じりに正直に告げる。すると、なにやら嬉しそうに微笑み
掌を軽くひらつかせて外へ出るようにと即した。
「褒め言葉をどうも。気をつけて帰れよ。」
「...はい。お先失礼します。」
いつもは見せない笑顔に困惑しつつ、
ぺこりと頭を下げて部屋を出た。
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