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At パリ
リヨン・パールデュー駅(Part Dieu)までのチケットを、チャコールグレイの制服を着た駅員から受け取り、TGVのゲートを目指す。
1年前と同じ、グレイとブラックのストライプ柄のシートに腰掛けた。
窓際に座っていた真っ赤な薔薇の花束を両手に抱えた老婆。
老婆は、チラリとこちらへ視線を向け、また窓の外へと視線を直した。分厚い老眼鏡をほんの少しずらして、朗らかな笑顔を作る。
窓の外で両手を大きく振る小さな少女へと、手を振り返している。
まだ蕾をいくつも作ったままの薔薇から、甘く芳しい香りが漂い心を和らげる。
すんと香りを嗅ぎ、安堵の吐息を吐いた。
シート前に挟まれた、ブランケット。
ビニール袋を破り、ブランケットを取り出して、しっかりと足に巻きつけた。
....また、同じ失態をするわけにはいかない。
肩がけのショルダーバッグの中から、機内モード設定のままだったスマートフォンの画面を開き、現在地を表示させる。
途端に、時が巻き戻された。
ーー1年前、
小栗と交わした約束を果たすために、あの場所へと向かう。
.....ねぇ、小栗。
小栗は、星屑を見上げるたびに、笑っていたの?
それとも闇の中、キラキラと輝く涙をこぼした?
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