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教室の後方の扉は少しだけ開いていた。エアコンの効いた室内から、冷気が廊下に流れ出してくる。薄暗い廊下の戸口に立ち、少女は中の様子をそっと窺った。
腕を組んだまま椅子に腰掛け、眠ってる少年。そして、眠ってる少年の肩に手を置いて、彼の顔を覗きこんでるもう一人の眼鏡の少年の姿が、少女の視界に入った。
(何をしてるんだろう…)
ピンと張り詰めてるのに、何処か甘やかな空気が漂っていて、少女は自分の存在をアピールすることを忘れ、息を殺してじっと眼鏡の少年の動向を見守る。
乱れた髪を掌で撫で上げて、腰を屈め、刻印でもするかのように、眼鏡の少年は眠ってる少年の額に静かに唇を落としていった。
(う、そ…)
目の前で見た光景の異常さに、少女の膝はがたがたと震えだした。
気配を察したのか、彼もまた直の方に視線を向ける。
「早川…」
「つ、ゆき先輩…」
見てしまった者と見られてしまった者。現実を現実と受け止められない程のかつてない衝撃が少女を襲った。」
(信じたくない、信じられない。こんなことって…)
眼鏡の少年は、少女がずっと片想いしていた相手だった…。
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