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「……」
「言っておくけど、俺は粗雑に扱ってないからな」
背後から中身を覗きこんだ月征が焦って言う。ああ、一瞥してそんなことはわかってる。だって、真っ二つにされたクッキーの断面にも、焼き色が入ってる。ということは、詩信はわざわざハートの形に型を抜いて、それを全部半分に割ってから、オーブンに入れて焼いたのだろう。
箱の中身を探ると、クリスマスカードも入っていた。開くとツリーが立ち上がる立体的なカードで、ボタンを押すとジングルベルのメロディが流れて、ツリーにつけられたライトがちかちかと点灯する。
そして、裏面のメッセージ欄には、ただ一言。
ひなちゃんのかばっ
と、詩信の丸っこい文字が殴り書きされてた。
「羽田らしいな」
同情を含んだ笑い声で、月征は言う。
全くだ。詩信らしい天邪鬼なプレゼントが、それでも陽向には泣けるほど嬉しい。ハートを真っ二つに割くほどの怒りが、寂しさから来るのなら、これは詩信なりの最大限の愛情表現なのだろうと思うから。
「しーちゃん…」
貰ったプレゼントを、陽向は詩信の代わりにそっと抱きしめた。
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