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元旦。早朝の神社は初詣客も一段落しているのか、参道に人影はまばらだった。
やっと明るくなってきた空の下。
「さむ~い。ホント寒い。ありえないくらい寒い」
コートの肘辺りを頻りに擦りながら、詩信が歯の根をがちがちさせながらぼやく。神社の名の書かれた参道入口に立つのは、詩信の他、直と月征の3名。
「寒い、って言ったって、体感温度は上昇しないよ、羽田。その辺でカイロか缶コーヒーでも買ってくれば」
詩信の悲鳴を受けて、優しいんだか冷たいんだか、冷静に事態への対処法だけを投げたのは、当然月征だ。
「女の子に行かせるんじゃなくて、さっと自分で行って、ぱっと差し出してくれるのが気の利いた男の人なんじゃないですか?」
「何で俺がお前にそんなことしてやらなきゃいけないんだよ」
あ、更に体感温度が下がった気がする。ふたりの間に立つ直には、吹き抜けた冷気が見えたように思えた。
「直ちゃん、どうしてこんな人がいいの? 今からでも遅くないよ、別れちゃいなよ」
「ど、どうして、って…」
今年もこのふたりの相性って、最悪っぽい? 正月早々親友と彼氏の板挟みになった直は、困惑しきって逃げ道を探すように、あちこちキョロキョロする。その視線の先に、3人の待ち人であり、この空気の緩衝材が見えて、直は思わず声をあげた。
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