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「あ、陽向先輩」
直の声に、詩信も月征もいがみ合うのをやめて、ぱっと振り返る。最寄りのバス停から降りて、スポーツバッグを抱えた陽向が、歩いてくるのが見えた。
「あけましておめでと~う。ごめん、待った?」
「待ったよ、ひなちゃん、遅い」
鷹揚な陽向の挨拶に、詩信は口をとがらせる。会った早々全開のワガママも、陽向は可愛くてしょうがないのか、だらしなく顔を緩ませた。
「ごめんごめん、関越自動車道、事故で渋滞してた」
夜行のバスで来て、こっちに着くなり4人で去年と同じ神社に初詣。言い出しっぺは陽向だが、流石にハードスケジュールを慮って、詩信もそれ以上の文句は言わなかった。
「空いてるうちに参拝済ませちゃおうぜ」
と再会の感慨に浸る間もなく、月征は足を参道に向ける。直が彼に続いて、陽向と詩信はその場に残された。
付き合うと決めて、陽向と対面するのは初めてだ。距離感の掴めなさに、詩信は戸惑って俯いた。もしかして、4人で会うことにしたのも陽向の気遣いなのかもしれない。詩信がいきなり自分とふたりきりになることで、怯えたりしないように…。
「しーちゃん、手袋してきてくれたんだ」
嬉しそうな陽向の声に、咄嗟に顔を上げた。
「ひなちゃんがしてきて、って言ったんじゃ…」
「うん。じゃあ、もうひとつのワガママもいい?」
陽向は自分の茶色い革の手袋に包まれた手を、詩信の前に差し出した。
――しーちゃんと、手つないで歩きたい。
「う、うん、いいよ」
おずおずと詩信からのべた手を、陽向はがっちり掴んだ。大きな手に包まれて、感じるのは嫌悪感ではなく、安心感で。こんな風に思える自分が、詩信は不思議だった。
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