だって夏だもん

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「直ちゃん、ここ座りなよ」 「おい。羽田。おかしいだろ、それ…」 「え、えっと…」 「ダメだよ。直ちゃん、事故があったら、助手席がいちばん危ないんだから。直ちゃんは運転席の後ろ。私はその隣。じゃあ、運転手さん、目的地までよろしくお願いしまーす」 (…俺はお前んちのお抱えの運転手かっ) バタン、とリアシートの扉を内側から閉められて、月征は乱暴に運転席に乗り込み、エンジンを掛けた。 月征と陽向が高校を卒業して1年半弱――季節は夏になっていた。 金沢に旅立っていった陽向のところに、月征の運転で向かうところだ。確かにロングドライブは初めてだし、ルートも確実に把握してるとは言いがたい――勿論ナビはついているから大事ない――が、月征にとってみたって、初めて彼女を乗せての長距離ドライブ。そして待ちに待った夏休みであるのに。 運転席月征。助手席、無人。そして、リアに彼女である直とその親友の詩信って、一体全体何なんだ、これ。 どうして詩信がオマケでついてくるかと言うと、一応詩信はこれから向かう金沢に住む渡部陽向の彼女だからだ。男女の親友同士がクロスした相関図は、これでもまだわかりやすくなったのだ。以前はオール一方通行の矢印だったのだから。 未だに彼氏の陽向よりも、親友の直への態度の方にあからさまな好意を示す、詩信の行動には月征は苦笑いせざるを得ないが。 (ま、俺は運転集中すればいっか)
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