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発車させる際に、ちらっとバックミラー越しに、後ろの様子を窺うと、直の申し訳無さそうな瞳とかち合った。
ダイレクトに彼女を見たくて、月征が振り返ると、直は嬉しそうに微笑む。
「せ、先輩。ガム食べます? あ、飴もあるけど…」
でも甘いの嫌いですもんね。直はカバンの中をごそごそし出す。
「ガムがいいけど見つかったらでいいよ」
「あ、ありました」
背中越しに渡された銀の包を月征は受け取る。
「3,4時間かかるから、途中で寝てていいから」
「…ね、寝ないですよっ」
「そう?」
「早川車酔い平気?」
「平気です」
「あたしは酔いやすいけど、酔い止め飲んで来ました」
直と月征の会話に割って入ってきて、月征が求めていない情報まで開示してきたのは、詩信だ。
「…うん。酔ったら、近くの駅までは輸送するから、あとはひとりで電車で行って。帰っても構わないし」
自分の彼女以外の女までは責任見きれない。そんな冷たさで月征はあっさりと言う。
「うわ、冷たっ。あたしにはいいですけど、直ちゃんにそんな冷たいことしたら、許さないですよ、交際認めないんだから」
「…お前だからに決まってんだろ。大体、早川と俺が付き合うのに、どうしていちいち羽田の許可がいるんだよ」
「あたしが直ちゃんの絶対無比の親友だからですっ」
「……」
車内で繰り広げられる親友と彼氏の争いに、直は取り付く島がない。
(…うーん。これで金沢まで…長いなあ)
仕方なく自分も持ってきたキャンディを舐め始めた。
3人を乗せた赤いエクストレイルは、一路関越自動車道を北上する。陽向の住む街に向かって。
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