だって夏だもん

3/23
628人が本棚に入れています
本棚に追加
/625ページ
発車させる際に、ちらっとバックミラー越しに、後ろの様子を窺うと、直の申し訳無さそうな瞳とかち合った。 ダイレクトに彼女を見たくて、月征が振り返ると、直は嬉しそうに微笑む。 「せ、先輩。ガム食べます? あ、飴もあるけど…」 でも甘いの嫌いですもんね。直はカバンの中をごそごそし出す。 「ガムがいいけど見つかったらでいいよ」 「あ、ありました」 背中越しに渡された銀の包を月征は受け取る。 「3,4時間かかるから、途中で寝てていいから」 「…ね、寝ないですよっ」 「そう?」 「早川車酔い平気?」 「平気です」 「あたしは酔いやすいけど、酔い止め飲んで来ました」 直と月征の会話に割って入ってきて、月征が求めていない情報まで開示してきたのは、詩信だ。 「…うん。酔ったら、近くの駅までは輸送するから、あとはひとりで電車で行って。帰っても構わないし」 自分の彼女以外の女までは責任見きれない。そんな冷たさで月征はあっさりと言う。 「うわ、冷たっ。あたしにはいいですけど、直ちゃんにそんな冷たいことしたら、許さないですよ、交際認めないんだから」 「…お前だからに決まってんだろ。大体、早川と俺が付き合うのに、どうしていちいち羽田の許可がいるんだよ」 「あたしが直ちゃんの絶対無比の親友だからですっ」 「……」 車内で繰り広げられる親友と彼氏の争いに、直は取り付く島がない。 (…うーん。これで金沢まで…長いなあ) 仕方なく自分も持ってきたキャンディを舐め始めた。 3人を乗せた赤いエクストレイルは、一路関越自動車道を北上する。陽向の住む街に向かって。
/625ページ

最初のコメントを投稿しよう!