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「これならいいだろ?」
「あ、はい…」
「早川泳げるの?」
「クロールなら100は行けます」
「あ、凄い。じゃあさ、あの岩のとこまで競争しよっか」
月征が指さした方向を、直も見やった。遊泳ゾーンと禁域を分ける黄色いロープの手前に、幾つか岩が浮かんでいる。月征が指したのは、正面のひときわ大きな人の背より高く海面に顔を出してる岩だ。
「いいですよ」
「陽向、眼鏡持ってて」
「え、俺?」
「どうせ、泳がないだろ?」
と、来た時のまんま、ワンピースを着こみ、日傘を差した詩信を横目に月征は言う。確かに詩信の格好は、この場に全くそぐってない。
「せめてしーちゃん、水着くらい着ようよお」
予想はしていたが、詩信のノリの悪さに、陽向は涙目だ。
「持ってきてないです。ひなちゃんがプライベートビーチでも招待してくれたら、着てあげてもいいですよ?」
詩信は辺りを見回す。江ノ島の海程ではないが、このビーチにもいたるところにいパラソルは立てかけられて、人も多い。詩信の発言はワガママ放題だが、彼女の過去を考えたら、詩信が人前で肌を晒すことに臆病なのも当然なのだ。
「だよねえ」
男性恐怖症だった詩信だ。その詩信が、自分の彼女になってくれ、友人の計画に便乗する形になったにせよ何にせよ、夏休みを利用して会いに来てくれたのだ。そのことだけでも感謝しなくてはいけないだろう。
(あーでも、昨日ちょっとだけ想像しちゃったのになあ。しーちゃんの水着姿)
ちょっとだけ羨ましい思いで、陽向は睦まじく海へと入っていく月征と直の後ろ姿を見やった。
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