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直が初めて月征とデートしたのも、江ノ島の海だった。あの時も夏で、直が「海に行きたい」と言ったから、月征が水着の支度をしてきてたのに、直が準備してなかったから、島の散策に変わった。
でも、あのデートの時は、月征の想い人は陽向で、直はその気持の受け皿でしかなかった。両思いなんて想像すら出来ないくらい、傍にいても、月征の存在は遠かったのに。
「? どうしたの?」
片想いだった頃を回想していた直を、月征は不思議そうに見つめる。眼鏡がないせいか、普段より目を細めていて、いつもは峻烈に光る視線も何処か覚束ない。でも、その分、彼の綺麗で整った目鼻立ちは際立っていて、直はまたくらくらしてきてしまう。
「…い、いえ。月征先輩の素顔、珍しいので…」
「早川がその気になれば、いくらでも見せてあげるのに…」
「ええっ!?」
それってどういう…???
「早川、泳いでる間くらいは、これ脱いでもいい?」
と、月征はTシャツの襟ぐりを引っ張る。着衣で泳ぐのは確かに危険だ。
「…な、なるべく見ないようにしますので、どうぞ」
「いいよ、見ても」
にっと笑って、月征はTシャツを脱ぎ捨てると、岩場に引っ掛ける。
「俺も早川の水着しっかり見てるし」
「えっ。そ、そんなわざわざお見せするようなものでは…」
改めて言われると、急に恥ずかしくなって、直は慌てて両手を胸の前でクロスさせる。直の水着は、タンクトップみたいなトップスとショートパンツを合わせたもの。胸やお尻が強調された、いわゆる色っぽいものではない。
(似合わないんもんなあ…)
近くで女の子3人でとビーチボールをしてるグループの彼女たちとつい、見比べてしまう。
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