629人が本棚に入れています
本棚に追加
「何で? 可愛いよ」
「でも」
もっと色っぽい大人っぽい水着が似合う容姿だったら。170センチ近い上背と真っ直ぐな身体は、高3になっても相変わらず女性らしい丸みに欠ける。
「はーやーかわ」
「ご、ごめんなさいっ」
「――直は女の子っぽいし、可愛いよ。それとも、俺ひとりの主観じゃ、足りない?」
足りない? そう聞く、月征は怒ってるというより、寂しそうだ。
好きな人に、好きと言って貰える――それが、どれだけ凄いことか、直は誰よりも知ってるはずなのに。
何千人、何万人の人に『男の子みたいだ』と思われても、自分の好きなたったひとりの目に、可愛く映ればそれでいいのに。
「た、足りてますっ。目一杯です」
慌てて答えると、月征は肩を震わせてる。あ、あれ?
「目一杯って…」
「せ、先輩、また私のことからかってるっ。わざと悲しげな顔したりしてひどいっ」
「からかってないからかってない」
目尻を指先でこすりながら、月征は答える。どうだか怪しいなあ。直は訝しげに、腕を組んで月征を見つめる。けれど、その腕はすぐに解かれてしまった。
ぐっと直の左の手首を、月征は引き寄せる。
「――泳ごっか」
「は、はいっ」
月征の言動に一喜一憂してしまう辺り、片想いの頃と何ら変わりない直だった。
最初のコメントを投稿しよう!