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ビーチのパラソルの下で、詩信は横座りになったまんま、沖の方を見つめていた。わざわざ着込んだ白いTシャツに、直のロゴ入りの赤い水着。遠目でも、ふたりの姿はすぐにわかる。
「…あいつら、気になる? しーちゃん」
レジャーシートを敷いて、その上に寝転がってた陽向に、見ていたものを当てられて、詩信は彼の方に視線を向けた。
「べ、別に。元副部長さんが直ちゃんいじめてないか、監視してるだけです」
「それは…心配いらないと思うよ」
確かに月征は、女性に対してマメで気のつくタイプではないし、誰にでも別け隔てなく接する優しさも持ちあわせてはいない。けれど、一旦自分が心を許した人間はとことん信用するし、懐も深い。
「月征、直ちゃん大事にしてるもん」
無論、男同士であからさまにそんな会話はしないが、月征が好意ある相手に対する態度は陽向がいちばんよく知ってる。
陽向の押した太鼓判に、詩信は複雑な表情を見せた。
「…ひなちゃん、ここにいていいの?」
「? なんで?」
「…直ちゃんや元副部長さん達と泳いできても、いいよ?」
詩信の天邪鬼ぶりには慣れてるつもりだったが、これには思わず陽向も声を荒らげてしまった。
「えー、しーちゃん、冷たっ。俺のこと、追っ払おうとしてる?」
「…ち、違っ」
けれど、詩信としては純粋に陽向を憂いた故の台詞だったのだ。行動的で遊び好きな陽向には、砂浜でじいっと沖を見つめてるだけなんて、さぞやストレスが溜まるのではないかと思ったのだ。
水着も着ない、海にも入れない。詩信が海を楽しまないのは、詩信なりに理由があってのことだが、陽向にまで付き合わせるのは忍びない。
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