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「しーちゃん…?」
目をぱちくりさせながら、陽向は頬を擦る。今、触れた感触。あれって…。
「な、何もしてないですっ。ひなちゃん、ずるい。寝てると思ったのに」
「ずるいって…やっぱ何かした? しーちゃんの匂い、間近で感じた気がしたんだけど」
夢、だったんだろうか。何処まで夢で、何処まで現実なのか、今の陽向には区別がつきにくくなってる。
「やだー。匂いとか、ひなちゃん、エロ過ぎっ」
「ご、ごめん。あ、しーちゃん、喉渇いてない? なんか、買ってこよっか?」
「…ダージリンのアイスティー」
「や、茶葉までは指定出来ないと思うな」
とりあえず、言ってくるわ。すぐさま立ち上がると、陽向は海の家の方に走っていく。
(気のせい…だったのかな)
陽向はほっぺを何度も触る。何かが触れた感触は確かにしたのだが…。
(まさか、ね…)
詩信は男性恐怖症だ。自分から触れてくるなんて、きっとしない。
キスとかハグとか、欲を言えば、そりゃ陽向だってしたい。けれど。詩信の心に寄り添ってでないと意味が無い。
詩信の傍だから、つい見てしまった白昼夢。そうに違いない。陽向はそう、思い込もうとした。
ふたり分のドリンクを買って、詩信のいるパラソルに戻る。見ると、パラソルの中の詩信に、ふたり連れの男が話しかけてる。
(しまった!)
陽向は焼けつく砂浜の上をダッシュした。
俺がいなくなったら、しーちゃん3分の間に10人くらいからナンパされちゃうよ?
自分でそう言ったくせに、どうして詩信をひとりにしてしまったのか。
詩信の背中は心なしか、震えて見えた。
「しーちゃんっ!」
名を呼んで、詩信を庇うように、男達と詩信の間に陽向は立ちはだかった。
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