だって夏だもん

13/23
前へ
/625ページ
次へ
男たちは浅黒い肌に金色に近い髪色、サングラスをしてるから、顔はわからないが、いかにも軽そうなちゃらそうな奴らだ。 陽向の登場に、いかにも面白くなさそうな声で。 「…誰、アンタ」 背の低い方の男が、グラサン越しに陽向を睨めつけてくる。少し酔っているのだろうか。サングラスの下の頬骨の辺りに赤みがさしているし、呂律も怪しい。 「ごめんねごめんね。この子俺の連れなんだ」 「ふーん」 と、サングラス越しに背の低い方のオトコはじろじろ陽向を見てくる。 「随分、綺麗なお連れさんで」 ひゅーっと、口笛までならしてから。 「ちょーっと貸してくんない? お茶1ぱい飲んだら返すから」 貸して、って詩信はビーチボールや浮き輪じゃないし。そもそも、この青ざめた顔見りゃ、わかりそうなもんだけど。 死ぬ程嫌がってる、って。 ふつふつとわきたつような怒りは、腹の底に収めて、陽向はすっとぼけた口調で言う。 「でもこの子…」 「何だよ」 「海外帰りで、赤痢の疑いあるんだけど…」 赤痢。男ふたりの足が、半歩下がる。 「熱もひどくって、ほら、今も青ざめてるでしょ? 早く病院連れて行きたいんだけど、親がここに遊びに来てるから、車借りに来たんだけど、なかなか会えなくて。お兄さんたち、車? ちょっと貸して貰える?」 「いやいや俺たち電車だから…」 あとは早かった。さーっと波が引くより早く、後ろ足に遠ざかり、ある程度バックしたら、踵を返して、人波に消えてく。 彼らの姿を追えるだけ追いかけ、視界から外れたところで陽向は言った。
/625ページ

最初のコメントを投稿しよう!

629人が本棚に入れています
本棚に追加