だって夏だもん

16/23
前へ
/625ページ
次へ
「は、はい、な、なんなりと」 気負い過ぎた直の返事がおかしいらしく、月征はくすくす笑う。 「そんな大層なもんじゃないんだけど…肩、貸して」 「え?」 意味を問う暇も『はい』と直が答える間も許さず、月征は直の肩にこてんと右の側頭部を乗せた。 「つ、月征先輩…っ」 予期せぬ接触に直の身体はぴきーんと固まってしまう。 「ごめん、ちょっとだけ寝かせて」 そういいながら、月征は瞼を閉じてしまう。直の肩にこぼれた前髪がくすぐったい。眼鏡のない素顔の寝顔が、露出された肩が鎖骨が直の間近にある。 (えーえー、どうしよ…っ) 肩こりしそうなくらい、かちこちに固まっていた直だったが、月征から寝息が聞こえてくると、次第に緊張や興奮も収まってきた。 (やっぱりカッコいいなあ。月征先輩…) 空は快晴で、波は穏やか。眼下の海は透明で澄み切っている。濡れた身体を風が優しく撫で、乾かしていく。 無防備な月征の寝顔を見ながら、幸せ気分に浸ってしまう直だった。
/625ページ

最初のコメントを投稿しよう!

629人が本棚に入れています
本棚に追加