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夕方、海水浴から引き上げて、陽向の家に向かった。市街地にある陽向の母、美晴の生家は、瓦屋根に木造の昔ながらの日本家屋だが、とにかく広い。
「ゆっくりしていってね」
美晴も祖母も、直たちを歓迎してくれている。とは言え――
「やっぱり、お前と同室だよなあ…」
陽向の部屋で、几帳面に荷物の整理をする月征の背中に、陽向はがっかりしたような声をあげる。親の手前もあり、月征は陽向と、直と詩信は、階下の客間に泊まることになった。
当たり前だし仕方がないのだが――。
「俺に愚痴るなよ」
「いいじゃん、お前に愚痴くらい言ったって」
相変わらず、月征には平気で理不尽な訴えもしてしまう陽向だ。
「同じ部屋に寝泊まりしても、なんにも出来ないと思うけどね…」
「わーってるよ、そんなこと」
心が追いついていないのに、詩信を無理やりどうこうしようとは思わない。ただ、やるせない状況への不満を口にしてみただけなのだ。そういう感覚が合理的かつ冷静な月征には理解しがたいだろうことも、陽向は重々承知しているが。
けれど、続く親友の言葉は陽向には予想外だった。
「俺はお前と一緒で良かったけど。今、早川と同じ部屋なんてなったら…理性吹っ飛びそう」
四角四面の友人から、こんな台詞が出るなんて、初めて会った頃は――いや、高校卒業した頃でさえ、想像だにしなかった。
で、こういう月征の弱みには徹底的にからかいを入れてしまうのは、昔からの陽向の癖だ。
「月征先輩ダメです、そんな…あぁ…っ。なんちゃって」
わざと直の声を真似てふざけると、結構マジに後頭部を叩かれた。
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