だって夏だもん

18/23
前へ
/625ページ
次へ
「やめろ。大体全然似てないし」 「えー、そう?」 自信あったのに。 「早川はもっと可愛い」 月征のボヤキに、陽向はついにやりとしてしまう。確かに直ちゃん、可愛いよなあ。いい子いい子って、頭ぐりぐりしてあげたくなる可愛さ。 「あー、まあね。けど、しーちゃんもっと可愛いし」 昼間、柄の悪い男ふたり組を撃退したあとの詩信の可愛さったら、もう筆舌に尽くし難かった。今、思い出してもにやけてしまう。 ヤニ下がってる陽向に、月征はわざと水を差すようなことを言ってくる。 「そりゃ、羽田は綺麗だけど…早川のが可愛だろ。素直だし」 「あー、お前ツンデレちゃんのデレが発動した時の破壊力知らないね。直ちゃんの可愛さは認めるけど、やっぱしーちゃん…」 「早川」 「しーちゃんっ」 陽向も月征も負けず嫌いのせいで、ついついヒートアップしてしまう。我に返ったのは、互いの彼女の名を5回くらいずつ叫び合ってからだった。 「――やめよう、かなり不毛だぜ、俺たち」 先に折れるのは陽向というこれも、定石通りだった。 「…だな」 「お前とこんな話が出来る日が来るなんて思わなかったよ、陽向」 可愛くてしょうがない彼女の顔を浮かべてから、月征はぽつりと呟く。 2年前の月征は出口のない想いを抱えて、悶々と鬱々とした日々を過ごしてた。 親友への恋心はいつの間に友情に戻ったのだろう。霧消してしまった感情は、けれど忘れることは出来ない。 「直ちゃんのおかげだろ」 「ああ…」 「大事にしろよ~」 「お前に言われなくてもするよ」 月征が抱く「好き」という感情は、陽向に対するものと同じであっても、直への態度は親友へのそれとは全く違う。 人から誤解を受けやすく、いちいち言い訳もしない月征だが、直にだけは臆病だ。彼女を傷つけたくなくて。失いたくなくて。 早く自分だけのものにしたくて、けれど直の心が自然に月征に追いつくまで、待つのは全然苦じゃない。
/625ページ

最初のコメントを投稿しよう!

629人が本棚に入れています
本棚に追加