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「なあ」
「ん?」
「酒でも飲もっか」
小学生の男の子が、悪戯でも思いついたような表情で陽向は言って、冷蔵庫から缶ビールを拝借してくる。
グラスもなく、つまみはこれまたさきいかを袋ごと、というのがいかにも陽向らしいが。それより月征は気になることがあった。
「お前さ…まだ…」
そう。4月生まれの月征は既に成人してるが、陽向の誕生日は8月の終わりだ。あと、数週間というレベルだが、まだ未成年だ。
「かてーこと言うなって」
(あーあ)と呆れる月征に、一本をもたせ、自分はもう一方を手に取った。
「かんーぱーい」
陽向の声を合図に、月征がタブを引き抜くと、しゅわーっとビールの泡が立ち、飛沫が月征の眼鏡を汚す。
ぽかんとなった月征に陽向はおかしそうに笑ってる。どう考えてもわざとだ。小学生の悪戯かっ。
「お前のも貸せよっ」
強引に陽向の缶を奪い取ると、月征も思い切り缶を振ってから、わざわざ陽向の目の前で開ける。
同じように弾けた炭酸が陽向の顔と部屋中に飛び散った。
ふたりでゲラゲラ笑いながら、顔と床を拭いてから、改めて乾杯した。
(そういや陽向と飲むのって初めて…)
彼と過ごした年月の長さを思い返しながら、月征は飲み口に口をつけた。
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