だって夏だもん

21/23
前へ
/625ページ
次へ
今朝方から、詩信も口数は少なくて、陽向の祖母と母に別れを告げ、玄関を出てからは、ほぼ一言も喋っていない。さっき、月征が直を連れて車を出した時だって、以前までの詩信なら「ずるい」とかなんとか、直を独占する月征への文句のひとつも出ていたはずなのだ。 (俺がしーちゃんと離れがたく思ってるその十分の一くらいは、寂しく思ってくれてるかな…) 「しーちゃん…」 俺、何処まで近づけたかな。何処まで信頼されてる? 詩信のとの心の距離を測るように、陽向はゆっくりと詩信に向かって手を伸ばす。 長い髪に指を絡めると、詩信は一瞬だけ身体をびくつかせはしたものの、それ以上拒みはしなかった。 「…次、いつ向こうに戻ってきます?」 「あー、正月くらいかな」 4ヶ月、長いなあ。隔てる時間の長さにうんざりしながら答える。 「…ひなちゃん」 ふいに詩信が思いつめたような顔で陽向を見上げ、陽向のTシャツの裾を右手で摘む。 潤んだ瞳、何かを言いたげに半分だけ開いた唇。 詩信も陽向と同じ気持でいると、自惚れてもいいのだろうか…。 「しーちゃん…キス、してもいい?」
/625ページ

最初のコメントを投稿しよう!

629人が本棚に入れています
本棚に追加