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今朝方から、詩信も口数は少なくて、陽向の祖母と母に別れを告げ、玄関を出てからは、ほぼ一言も喋っていない。さっき、月征が直を連れて車を出した時だって、以前までの詩信なら「ずるい」とかなんとか、直を独占する月征への文句のひとつも出ていたはずなのだ。
(俺がしーちゃんと離れがたく思ってるその十分の一くらいは、寂しく思ってくれてるかな…)
「しーちゃん…」
俺、何処まで近づけたかな。何処まで信頼されてる? 詩信のとの心の距離を測るように、陽向はゆっくりと詩信に向かって手を伸ばす。
長い髪に指を絡めると、詩信は一瞬だけ身体をびくつかせはしたものの、それ以上拒みはしなかった。
「…次、いつ向こうに戻ってきます?」
「あー、正月くらいかな」
4ヶ月、長いなあ。隔てる時間の長さにうんざりしながら答える。
「…ひなちゃん」
ふいに詩信が思いつめたような顔で陽向を見上げ、陽向のTシャツの裾を右手で摘む。
潤んだ瞳、何かを言いたげに半分だけ開いた唇。
詩信も陽向と同じ気持でいると、自惚れてもいいのだろうか…。
「しーちゃん…キス、してもいい?」
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