だって夏だもん

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陽向に向ける詩信の視線が急に力を帯びる。キツイ感じで睨まれて、陽向は口走ってしまったことを悔やむ。 (やべえ、まだダメだったみたい…) ちょっと、いやかなり落ち込んでも、マイナスの感情を覆ってしまうのは得意な陽向だ。 「ご、ごめん。しーちゃんじょうだ…」 「何で、聞くんですかっ」 けれど、詩信はキツイ口調で、陽向が思ってもみなかったことを言い出す。 「へ?」 「そんなこと、女に聞くの卑怯だと思う」 「…あ、ああ、そうだね」 じゃあ、無認可でいいのだろうか。え、どうしよう。キスは月征としかしたことがない。触れても、いいのかな…。 苦笑いしながら、この気難しい彼女の意思を探る。詩信は真っ赤な顔で、俯いてる。まだ、掴んだままの陽向のTシャツの裾は、汗で滲んでしわくちゃだ。 「…聞かれても、あたしにもわかんないもん。平気なのか、そうでないのか」 ああ、そうか。詩信は詩信で戦ってるんだ。男が怖いという気持と、陽向を受け入れたいという気持。 「…無理っ!って思ったら、突き飛ばしていいから」 陽向はTシャツを掴んだままの詩信の手を取った。詩信の手のひらはじわりと汗で滲んでる。 「そんなの言われなくても、反射的にやっちゃいますから」 「そりゃそっか」 「でも、さっき平気だったから多分平気…」 「さっきって?」 「な、なんでもないですっ」 台詞の意味はよくわからないが、真っ赤になる詩信が可愛い。キスがしたいわけじゃなくて、好きだって伝えたいだけなんだよな。 離れてても、会えなくても、俺のこと忘れないでいて―― 早々に瞼を下ろした詩信の顔に陽向はゆっくり顔を近づける。前に一度、月征にキスしたことはあるが、その時とは鼓動の早さも高揚感も全然違う。 「好きだよ、しーちゃん…」 詩信のつけてる甘いリップの香りと柔らかな感触が、陽向を陶酔させる。とくとくと早まる鼓動がひとつ、鳴り終わるか終わらないか。それくらい短い儚いキスを陽向はした。
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