つけものおいしい

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 唇と唇を重ねて一つにした慕情はいつの間にか真っ二つに砕けてしまっていた。  互いに見上げた空はまるで雲のないあの空で、しかし彼は白昼の月に見惚れ、彼女は眩い太陽に焦がされていた。要するにそういうこと。  ――初めての口づけを大事にしたいと彼女は思っていた。彼女と交わす愛を大切にしたいと彼は思っていた。似ているようで決定的に違う二人の想いが重なることはなく、零れ落ちたのは丁寧に梱包されたゴミだった。  夜の公園。無粋な輩のいないそこは些かの誇張を許すなら宛ら恋人たちの幻想郷。明滅する蛍光灯がアンニュイな思惑を演出する。  煤けてペンキの禿げかけたベンチ。そこに腰を下ろした一組の若い男女。  黙し、見詰め、唾を呑み込み、二人はそと静かに二つのキスを捨てた。
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