例えば……

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きっぱりと断ると、ミィはいやいやと首を、横に振り、ガシッと俺の顔を掴み、物凄い馬鹿力で頭蓋骨が軋む、軋むというより、握り潰される勢いで掴まれ、妙に冷たい皮膚の感触もさることながら、リアルに頭蓋骨がミシミシと音を立て始める。 「ギ………ギャアアアアアアア、痛い痛い痛い、潰れる、飛び出す、飛び出しますよぅ? ミィさん、離して離して!!」 予備知識として、人間ってのは、全力で踏ん張っても通常の三割程度の力しか出せないらしい、肉体を守るための制限、それ以上だと肉体が耐えられないのだ、ただ、火事場のくそ力という比喩もあるように、人間は一時的に制限を無視した力が出せるが、ほんの一瞬の出来事だろう、それは、俺の常識だ、広く捉えるなら、医療関係者じゃなくても、一般人が漫画や小説で得ただけの知識だ。 けれど、この空間で俺の常識や知識なんて、塵のように吹き飛んでしまう、相手はゾンビで、死んだ人間なら、それこそ漫画や小説に登場する、ゾンビは一言で言うなら、馬鹿力が通説だ。 「お兄ちゃんって呼ばせてください、妥協して訊おにーたん、ニーニー、じー兄ちゃん、訊兄、さぁ、選びんでください、お願いします」 そんなお願いがあるか、脅迫だと叫びたいが、だんだん感覚が麻痺していく、もうなんでもいい、一つ、ツッコミを入れるなら、妥協するほど、呼び名がマニアックになっていく。 「お兄ちゃんで…………」 ミィが、どうして、初対面の俺に対して、呼び名にこだわるのか知らないがとにかく、頭蓋骨を潰されたらたまらないので答えると同時に、チンッとコーヒーカップを置く音が部屋に響いた。
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