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白黒だった、全て白黒だった。
見慣れた道、建物が広がっていた、そういつも見ていた、俺が親元を離れて、移り住んだ街が目の前に広がっていた、どこまでも遠く広がった、無人の白黒に彩られた世界があった、俺は、佇み呆けながらも目渡し、とっさに右足を見た、
「なんだこれ?」
右足は、黒い霧のように包まれて支えているようだ、試しに右足を上げてみると、追従するように浮いた、下ろてみると、ズシリと身体を支えられる妙な存在感がある、普段から立つということは、当たり前になっていただけに、失ってみて改めてありがたさを感じた。
「で、ここはどこだ?」
少し視線を遠くに向けてみれば、空は黒く塗りつぶされ、白い月が上がっていた。
このまま歩けば俺の通う高校がある、近くにボロアパートもあるだろう、また、街外れには、妖怪団地と雑誌で特集されたこともある、廃れた団地、行き着けの八百屋や魚肉店、大手のスーパーマーケットも、三日間とはいえ離れていたけれど、懐かしさがこみ上げてきても素直に喜べない。
この白黒に彩られている世界は、この街は明らかに偽物だからだ。
「おやおや、どうしましたの? 呆けてないで、佇んでないで、一時の帰郷を喜んでみたら? 貴方にとって最後なのですから、ええ」
聞き覚えのある声、鼓動のような『言葉』で俺の頭に響き渡った、あの声が背後から聞こえた。
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