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ぺたんと少女がその場にへたり込んだ、うなだれてはらりと結われた二本の髪が落ちて、無言ままうずくまるように動かなくなった、捕食者としての自信の喪失か、単純に立ち直れなくなったのか知らないけれど、油断はできなかった。
まだ、和解に至ったわけじゃない。
「喰うなら喰えよ」
勝利宣言というより、降参のほうが近かった、四本の腕を封じることに成功したけれど、少女に勝てたわけじゃない、ボロボロになった両腕をだらりと広げ路地裏の壁に背中を預けた、仮に鼠が猫の鼻に噛みついても悪あがきなのだ、振り払われて喰われるのが落ちだろう、両腕ももうボロボロだ、詰みであることは明白であとは喰われるだけ、足掻けるだけ足掻いた、これが末路ならそれもいい死という運命を無理矢理、抗ったことの罰なら受け入れよう。
「笑わないのですか?」
うなだれていた少女が語りかけてくる。
「笑う? 死に顔は笑って死ねってか、正直、難しいんだが」
「違います、貴方は私の本当の望みを知ったのでしょう? なら、笑うはずです、そうに決まってます」
なんだそれと、それこそ笑いそうになりながら。
「なんでだよ、外の世界に出たら満開のお花畑を見てみたいことに笑う要素なんてないだろ?」
メルヘンチックな望みである、笑われたっておかしくない、幼稚な望みだと後ろ指を指されるだろうけど。
「笑わねえよ、それがお前の夢で望みなら、笑うなんて失礼だ」
「貴方、私の望みをさんざん利用して揺さぶったこと忘れてません?」
「忘れた、殴られ過ぎて忘れた」
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