とある龍のつがいの話

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   わたしは、地龍と称される龍だ。龍としては唯一、人と直接関わる種だと言っておこう。人から見れば他の動物に近い存在かも知れない。  地龍の雄は成龍になると親から領地を引き継ぎ、自立する。それに伴い、伴侶を得る。  この伴侶探しに時間がかかるのだが、わたしは運良く、成龍になったその日に伴侶と巡り会った。栄養豊かな赤土色をした、愛らしい龍だった。  彼女は巡り会う五十年ほど前に、両親を亡くしたらしい。領土の土が汚染され、その影響を受けて息絶えたそうだ。  その土地は今では回復しつつあるが、彼女がそこへ戻ることはないだろう。  彼女は今、わたしの伴侶であるから。他の土地へ住みつく事はない。  彼女と出会ったのはわたしの領地にある小さな街だった。  香ばしい匂いにつられて立ち寄った焼き菓子店にいたものだから、彼女を見た瞬間に食べたくなってしまったのは、少し発想が飛躍していただろうか。  人の友人に話したら、距離を離しながら「嫁さんが不憫だ」と言われてしまった。
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