とある龍のつがいの話

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「……美味しそうなごちそうだな、紅緋(コウヒ)」  目の前に並べられた夕食に複雑な思いを抱えながらも、わたしはこれを用意してくれた嬉しさを妻に伝えるべく、微笑んだ。すると妻は蕩けそうな笑顔で喜ぶ。 「良かった! 腕によりをかけたからね、たくさん食べてね、翡翠!」  可愛らしく照れながら、妻は人の姿でならば四人は裕に座れるであろう食卓へ、料理を並べる。それから何やらもじもじと、小さな箱を取り出そうとした。 「待った、紅緋」  毎年のことなので、この料理と取り出そうとしているものの意味は分かっている。分かっているから、箱の方はここで止めた方が良いだろうと思い、そう声をかけた。 「えっ、なぁに?」  びっくりして、妻は取り出そうとした箱をさっと引っ込めた。目がまんまるになってうろたえている。 「……百十一回目」 「……え?」  突然回数を言われ、妻は完全に箱から手を離した。日にちを間違えたことに落ち込むだろうと思いながらも、終わってからよりは良いと思って口を開く。 「百十一回目だ、日にちを間違えたのは……わたし達が伴侶となったのは、百十一年前の明日だろう?」
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