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「……え? ……あっ!」
不安そうに首を傾げたあと、妻はさっと壁掛けの暦に走り寄って日付を確認した。そう顔を寄せなくても確認出来ると思うのだが、よほどしっかり見ないと実感出来なかったらしい。
「あ……ほんと、だ……明日、だ……」
ずる、と妻の手が壁を滑った。がっくりと項垂れてしまったので、側へ寄って慰める。
「なに、今日は前祝いとしよう。わたしも祝おうと思っていたんだ。お前に贈りたいものもある」
「えっ……本当?」
妻の目がはっとわたしに向いた。今まで記念日などにあまり興味がなかったわたしが、今年は一緒に祝おうというのだからさぞ驚いたに違いない。
「本当だ。だから、お前も贈り物は明日にして、今日は祝い酒といこう」
「……翡翠……」
見る間に妻の目に涙が浮かぶ。感情の浮き沈みが激しいところは変わらない。まあ百年くらいで変わることはないだろうが、このまま何百年も変わらないでいて欲しいと思う。
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