第三章 公開捜査

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  『千葉県で起きてる誘拐事件で、面白い情報があるんだけど聞いてくれますか』 「面白い情報、何でしょう?」 『誘拐事件の北田さんですけど、あの人も不倫してますよ。北田さんが経営している店の店長で、山本 ますみさんって人が相手です』  電話の主はそこまで言って、一方的に切られてしまった。  ボイスチェンジャーを使用しており、声からは性別など判断不能。だが口調から、テレビ局では女性らしいと判断した。  タレコミは、マスコミにのみされたもの。その為、警察よりも先回りし、山本 ますみの元に押し寄せた。  北田の愛人の山本 ますみもまた、行方不明にはなっておらず、通常通り店の業務に勤しんでいた。  ますみは休憩時間、インタビューに答えた。 「社長とは、数日前に会ったきりですよ」 「事件の事は?」 「テレビで知りました。その件について、社長からは連絡は入っていませんけど」  ますみは凛とした佇まいで、マスコミの質問に答える。北田との不倫関係に対して、後ろ暗い気持ちは少しも無い。それは、その堂々とした態度からも伺える。  北田とますみの関係。  ますみが彼が経営する飲食店に、アルバイトとして入り一年しないで始まっていた。  今の店の店長になったのも、愛人関係があればこそ。  そこで、ソムリエールになる為の資金も。勉強の為のワインも、全て北田が全て提供した。  南野と違い、周囲に関係が知れなかったのは北田の配慮の為。愛人だから店長になれたと、店の人間に言わせたくないという事だろう。 「社長とは、確かにそのような関係です。あくまでも、ビジネス上の関係。その延長線で、成立しているとご理解下さい」  マスコミには、そう答えた。  もしかしたらそのコメントも、万が一の時を考えて北田が用意したものかもしれない。  不倫という色っぽい関係に見えて来ない為、記者たちは肩透かしをくらっていた。
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