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「キュイラスさん、どうかなさったんですか?」
あまりに複雑そうだから尋ねてみると、キュイラスさんは苦笑いと空笑いの間のような…微妙そうな笑みを浮かべる。
「苦すぎる初恋を思い出してね。 楓ちゃんの初恋は誰だい?」
「初恋、ですか。 私は…父だと思います」
「楓ちゃんのお父さん?」
「はい」
父の顔は写真があるから分かるけれど、声や温かさなんて全然覚えていない。
だけど…成長して父を想うだけで、胸がほんのり優しく暖かくなって私は父さんが大好きなんだなって思える。
「女の子の初恋はお父さんってよく言うもんね。 父親の特権か…」
「キュイラスさんの初恋はどんな人なんですか?」
「……俺?」
キュイラスさんは、水槽の中を眺めるアレウスを見て指差した。
「あれ」
「へ? あれってアレウスですか?」
「色々と訳があるんだよ」
やっぱり複雑そうなキュイラスさんに、ちょっぴり好奇心が擽(クス)ぐられてしまう。
私は荷造りの手を止めて少し身を乗り出した。
「あの、その訳って訊いてもいいですか?」
「うん、誤解を招かない為にも聞いてくれるかい?」
そう言ってキュイラスさんは懐かしむように、遠い目をしながら話し始めた。
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