愛しい手紙

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私は複雑な思いを抱えながら帰りたくない家に帰った。 帰ると同時にいつものように夫の声が聞こえる。 「広美、おしっこ」 大きな声が狭い家を響かせる。 「はーい、ちょっと待ってね」 私は無理して明るい声を出した。 ベッドの上では夫は今か今かと待っている。 そんな夫の姿を見ると虚しくなっていまう私は悪魔なのだろうか? 三年前に心臓病で倒れた夫は九死に一生を得たがベッドから自分で立ち上がることも動くこともほとんどできなくなった。 最初は夫の頑張りもあり、リハビリも順調に進んでいた。 いつかは歩けるだろう。 そんなことを周りの医者や本人自身は言うようになった。 私は夫が生きていることに感謝した。 しかし、夫は病院を退院してから頑張らなくなった。 いつまでも良くならない夫は次第に泣き言ばかりいうようになり、生きていることを諦めはじめた。 ただ、生きているだけの毎日を過ごすようになった。 そんな夫を見て、私は虚しさを覚えるようになった。 また、今日も私は夫の介護をして、一日を終わらすのだろう。 夫の前で無理して笑い、私はこっそりため息を吐いた。
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