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鏡の中から、しゅんと伏せたような目でゆりあを見つめる男。突然目の前に現れた男に驚いたゆりあは、声を発せずにその男とただ見つめあっていた。
……この人は誰?どうして鏡の中にいるの?どうして鏡に私が写っていないの?
疑問はたくさん湧いてくる。でも何よりも気になったのは、彼の表情だった。
「あの……あなた、だぁれ?」
「……僕は、翔<しょう>」
鏡を通しているのに意外とはっきり聞こえる彼の声は、やっぱりちょっと落ち込んでいるようだ。
ゆりあにはどうして彼が落ち込んでいるのか、わからなかった。わからなかったけど、そんな顔をしていて欲しくなかった。
「ねぇ……どうしてそんな顔をしているの?」
「……君は、いつも笑顔だね」
いつも?鏡に写った私の顔を、いつも見ていたの?それはちょっと恥ずかしい。でも、ちっとも恥じゃない。
ゆりあはパチパチとまばたきをしてから、にっこりと笑った。
「そうよ。私はいつも笑顔なの」
自慢の笑顔を写らない鏡に向ける。
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