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ゆりあは昔、母親に『ゆりあには足りないものがある。欠落している』と言われた事がある。
そんな事を言われても、ゆりあにはちっともわからなくて、でもわからないからどうという事も無かった。だからその時も、にっこり笑った。
今、鏡の中にいる男……翔と同じような顔をした母親の前で。
翔と母親の顔が重なって見えたゆりあは、楽しい事を思い付いたとまた笑顔を鏡に向けた。
……この人の笑顔が見たいわ。そんな落ち込んでいるような顔ばかりは見たくないわ!
「翔っ。見てみて!」
「……な、なに?」
くるっとフリルのついたワンピースの裾を翻すと、部屋の中から面白そうな物をかき集めて、鏡の前で披露した。物を集めるのが趣味の父親にもらったびっくり箱、面白い絵が描いてある本、可愛いぬいぐるみ。
でも、何を見せても、どれだけゆりあが笑っても、翔はしゅんと目を伏せたまま。
それでもゆりあの笑顔は絶えなかった。でもでも少し……不安になった。
「……おもしろく、ない?」
「そんな事……ないよ」
言葉とちぐはぐな表情で伏せられた青い瞳から、ポロッと綺麗な雫が落ちた。
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