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翔のしゅんとうつ向いた青い瞳を笑顔で細くしたいと思ったゆりあは「あのね?」と、話し始めた。
楽しい話をたくさんしたら、彼も笑ってくれるかもしれない。鏡の向こうでは伝わらなかった楽しさが、伝わるかもしれないわ!
そう期待して、楽しい話をたくさんした。ゆりあの顔もにこにこと終始誰が見ても楽しそう。
……なのに、翔は笑わなかった。それどころかいっそううつ向き、苦しむようにゆりあから顔をそらす。
「どうしたの?やっぱり、楽しくないかな……」
「……違うんだ。君は悪くない、僕が……僕は……」
切れぎれの言葉の合間に、ポロポロとナミダが落ちていった。ゆりあはその美しさに見とれて、口をつぐむ。
「僕は……"楽しい"っていう感情が、わからないんだ……」
肩を震わせて息を詰まらせる翔に、ゆりあは首をかしげた。世の中には楽しい事がたくさんあって、私は知っているのに彼は知らないんだと言われても、いまいち理解できなかった。
翔が顔をあげると、頬にナミダが筋を作っていた。
「君と話がしたかった。君に、会いたかった」
翔は青い瞳が歪むほどナミダを目に貯めて、ゆりあを見つめた。
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