第七幕「この胸の苦しい想いは」

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--------------------------------------------------------------------------------- シキは土砂と瓦礫が混ざったそこを上っていた。 世界が崩壊へと向かい、空は荒れ、雨がぱらつき、不自然なほどに、 世界が壊れ始めていた。 そこには昨日まであった日常は、跡形もなくなかったけれど、 それでも、ここでアリエルと話をしたこと、妹が元気に部活をしていたことを、 思い出していた。 今朝、シキはクレアの携帯を借りて妹と話をした。 それは、シキの記憶が戻ってからの話だった。 「うん、もうこんなに朝早くになに?私は兄さんと違って忙しいだから、ふあ…」 電話の向こうで、ヤカンが沸騰する音が聞こえる。 それはいつもの朝の音だった。 「いや、ごめん、なんでもないんだ、これから部活だろ…?がんばれよ」 そんな会話をシキはした。それは、現実世界では結局することのできなかった、 何気ない会話。 シキは一段一段瓦礫を上る。 服装は泥だらけで、汗だくで、それでも学園を目指した。 思い出したのは現実世界でのアリエルとのやりとり。 それは、この大クラフトを作る少し前。 アリエルのマンションの、普段入ってはいけない屋上、夜が深く 二人を包み込んでいた。 アリエルは、これまでに見たことないほどボロ泣きで、 抱きしめられた感覚が痛くて、なんだかシキまで悲しくなった。 「アリエル、僕は、それでも君を裏切れないよ」 アリエルがどれだけ手を染めても、シキはアリエルを責めなかった。 どうしてシキがアリエルにそこまでこだわったのか、 シキにも本当はよくわかっていない。 だって二人はまだ子供で、未熟で、疑うだけの世界を認められなかった だけなのだから。 「あ…」 シキが瓦礫に躓いて、泥の急斜面を転げ落ちる。 シキの体は重く、仰向けになって空を見上げて、シキは涙を流した。 「僕にはなにもできなかった、アリエルを理解することも、  救うことも、だからせめて裏切りたくなかったんだ、  だって君は似ていたんだ、僕や、僕の妹に、  まるで家族のように近くて、穏やかで、それでいて大切な友達だった」 泥を蹴って、シキはまた走る。 その先にアリエルが待っていると、そう確信して。 ---------------------------------------------------------------------------------
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