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シキは土砂と瓦礫が混ざったそこを上っていた。
世界が崩壊へと向かい、空は荒れ、雨がぱらつき、不自然なほどに、
世界が壊れ始めていた。
そこには昨日まであった日常は、跡形もなくなかったけれど、
それでも、ここでアリエルと話をしたこと、妹が元気に部活をしていたことを、
思い出していた。
今朝、シキはクレアの携帯を借りて妹と話をした。
それは、シキの記憶が戻ってからの話だった。
「うん、もうこんなに朝早くになに?私は兄さんと違って忙しいだから、ふあ…」
電話の向こうで、ヤカンが沸騰する音が聞こえる。
それはいつもの朝の音だった。
「いや、ごめん、なんでもないんだ、これから部活だろ…?がんばれよ」
そんな会話をシキはした。それは、現実世界では結局することのできなかった、
何気ない会話。
シキは一段一段瓦礫を上る。
服装は泥だらけで、汗だくで、それでも学園を目指した。
思い出したのは現実世界でのアリエルとのやりとり。
それは、この大クラフトを作る少し前。
アリエルのマンションの、普段入ってはいけない屋上、夜が深く
二人を包み込んでいた。
アリエルは、これまでに見たことないほどボロ泣きで、
抱きしめられた感覚が痛くて、なんだかシキまで悲しくなった。
「アリエル、僕は、それでも君を裏切れないよ」
アリエルがどれだけ手を染めても、シキはアリエルを責めなかった。
どうしてシキがアリエルにそこまでこだわったのか、
シキにも本当はよくわかっていない。
だって二人はまだ子供で、未熟で、疑うだけの世界を認められなかった
だけなのだから。
「あ…」
シキが瓦礫に躓いて、泥の急斜面を転げ落ちる。
シキの体は重く、仰向けになって空を見上げて、シキは涙を流した。
「僕にはなにもできなかった、アリエルを理解することも、
救うことも、だからせめて裏切りたくなかったんだ、
だって君は似ていたんだ、僕や、僕の妹に、
まるで家族のように近くて、穏やかで、それでいて大切な友達だった」
泥を蹴って、シキはまた走る。
その先にアリエルが待っていると、そう確信して。
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