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(ようやく行ったかあいつ、常に警戒してるって感じでやりにくいったらありゃしない)
ルナが去って、すぐに今度は頭の中に直接響く声、屋上の手すりに座って、足をふらふらさせているその人物こそ、私が屋上へ来ている理由だった。その男か女かも見分けのつかない抽象的な顔つきと体つきのこいつは、私にしか認識できない稀有な存在だが、確かに個として生きているのだ。
「ルナは、貴方の存在に気がついているんじゃないの」
私が素朴な疑問をこいつにする。一見朴念仁に見えるルナだが、雰囲気はどこか只者ではない。そんな四六時中私に張り付いている彼女が、こいつの存在に気が付いている可能性は否定できない。けれど、そんな疑念をよそに、こいつは大きく首を横に振る。
(まさか、ボクの存在にあいつが気が付いているわけないよ、確かにあいつは知識も、その身体を巡るエネルギーも相当特殊なものだ。けれど所詮それらはお膳立てされただけの血統、ボクは本物だ、21番目の大クラフト、存在を感知できる人間はごくわずかなハズだよ)
「ねえ、私に宿る貴方が大クラフトという存在ってことは知れたわ、概要は正直理解できなかったけれど、この魔法のような力が確かに存在してるって実感はある」
私は自身の手を見て、ここまで車椅子にかけた、魔法、と呼んでいる不思議な力について解釈したことを話す。
(魔法、魔法ね。まあそこまで万能な力じゃないことは君が身に染みているはずだと思うけど)
こいつのその言葉を聞いて、唇を少し噛む。それは、悔しい、という気持ちと、もどかしさと苛立ちだ。
「この魔法のおかげで私はこんな身体で、そして死ぬしかないというのに」
そう、そうだって思うのに。
(確かに、君が君の母親の胎内で大クラフトを宿した時、君の死期は決まったのかもしれないが、あまりボクだけのせいにされるのは心外だよ、大クラフトがあろうがなかろうが、君のその病の事実は変わらない。なぜなら、大クラフトが干渉するのは魔力と生命力のみだからさ)
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