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2: 歪んだ妄想
■2028年 6月15日
「大クラフトは制御できない」
その豪華な応接室で、場所に似合わない小柄で若いルナと、きっちりとスーツを着込んだガーディナル・ラシュディは、双方、含みのある顔でにらみ合っているように見えた。
「何故だね、利害は一致していたハズだ、なのに何故いまさらになってそのようなことを言いだす」
ガーディナルは片手で頭を抑え、感嘆のため息をついてルナに問いかける。
「言っていることを最初から違えているつもりはないわ、大クラフトを制御することはできない、それが自身に宿る大クラフトではないものならなお更ね」
「そのための保険は多重に用意しただろう?我々のこれまでの行動が無駄だったとでも言いたいのかね」
足を無意識に少しばかり連動的に動かしている。イラついた人間の反応だ。
「時間がかかり過ぎたのよ、アリエルの今の身体ではもう大クラフトを維持することすら難しい」
ルナの言葉を聞いて、ガーディナルがドン、と強く双方の間に置かれたガラスのテーブルを叩く。
「それがどうした、情でも沸いたというのか、ぎりぎりまで可能性が持てば良い、元々助けるつもりでいたわけではない」
「ガーディナル、貴方は大クラフトを甘く見すぎている、大クラフトはそもそも、術者自体にも制御できないほどの強大な力、仮にアリエルが万全であって、彼女が相当の術者であっても、飲み込まれる可能性は付きまとうもの」
はあ、とガーディナルが深くため息を付く。ルナは思った、これは何を言っても無駄な状況に他ならないと。
「誰にそんな口を聞いている、私は長年、いや、この人生をかけて大クラフトを研究してきた、自負もある、これは私の人生の成果を出すために必要なことなのだよ、だから今更止めることなどできん」
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