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「何を恐れているんだい、君」
シキが囁くようにルナに話しかける。対するルナはシキを振りほどこうとするが、それをやがて止める。それは急に、ルナは何かに気が付いたようにシキに対する見る目を変えたのだ。
「そう、そうなのね、貴方だったのね、私が、ずっと……」
ルナが言いかけた瞬間。
「ちょっとちょっとー、二人で急に雰囲気作らないでくれますー」
シキの後ろで急に不機嫌になったアリエルが抗議する。
それを聞いたルナが珍しく、少しあわてた様子でアリエルに謝罪する。
「えと、ごめんなさい」
まさか素直に謝られると思ってなかったアリエルは驚いた様子で、それを見たアグリアも驚いた様子を隠せない。
「嫌だな、謝るのは僕ですよ、すみません、いきなり抱きついたりして」
悪びれている様子はないが、どこか憎めない少年はルナににっこりと笑った。
アリエルがそれを聞いて笑う。つられてアグリアも馬鹿らしいと笑う。ルナもどこか恥ずかしそうに笑って、シキも微笑みを絶やさなかった。
アリエルの病室を後にしたルナとアグリアは、お互い意図もせず同時に向き合った。
「なに?」
アグリアはルナを小ばかにしたように見つめて言った。
「いや、いいじゃないか、まだそんな人間らしい感情が残っていたなんて」
ルナはどこか懐かしそうに、目を伏せる。
「ねえ、アグリア」
アグリアはやけにしおらしいルナを見て目を細める。
「この世界に絶対的な価値観など存在しないと言うけれど、この気持ちは、この感情は、どういう価値観として捉えれば……」
言いかけて、ルナは涙を流した。
アグリアはそんなルナをやさしく抱き抑えて言った。
「もう時間がない、ぎりぎり、間に合ったんだ」
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