第八幕『大クラフト』

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「何を恐れているんだい、君」  シキが囁くようにルナに話しかける。対するルナはシキを振りほどこうとするが、それをやがて止める。それは急に、ルナは何かに気が付いたようにシキに対する見る目を変えたのだ。 「そう、そうなのね、貴方だったのね、私が、ずっと……」  ルナが言いかけた瞬間。 「ちょっとちょっとー、二人で急に雰囲気作らないでくれますー」  シキの後ろで急に不機嫌になったアリエルが抗議する。  それを聞いたルナが珍しく、少しあわてた様子でアリエルに謝罪する。 「えと、ごめんなさい」  まさか素直に謝られると思ってなかったアリエルは驚いた様子で、それを見たアグリアも驚いた様子を隠せない。 「嫌だな、謝るのは僕ですよ、すみません、いきなり抱きついたりして」  悪びれている様子はないが、どこか憎めない少年はルナににっこりと笑った。    アリエルがそれを聞いて笑う。つられてアグリアも馬鹿らしいと笑う。ルナもどこか恥ずかしそうに笑って、シキも微笑みを絶やさなかった。  アリエルの病室を後にしたルナとアグリアは、お互い意図もせず同時に向き合った。 「なに?」  アグリアはルナを小ばかにしたように見つめて言った。 「いや、いいじゃないか、まだそんな人間らしい感情が残っていたなんて」  ルナはどこか懐かしそうに、目を伏せる。 「ねえ、アグリア」  アグリアはやけにしおらしいルナを見て目を細める。 「この世界に絶対的な価値観など存在しないと言うけれど、この気持ちは、この感情は、どういう価値観として捉えれば……」  言いかけて、ルナは涙を流した。  アグリアはそんなルナをやさしく抱き抑えて言った。 「もう時間がない、ぎりぎり、間に合ったんだ」
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