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5:世界
■2028年 12月14日
季節は冬。東京の空は曇り空で、アリエルの状態も落ちつきを見せていた。けれどアリエルはすっかりと元気を失くし、以前の様に病院内を出歩くこともなくなった。
「やあ、アリエル、きたよ」
少しばかり体調を回復させたシキがアリエルの見舞いにやってくる。アリエルは笑顔を作りながらも、あまり言葉を話す体力もない様で、会話はシキの一方通行が多かった。
しんしんと外には雪が降り積もっていた。そんな世界をシキはしばらくだまって見ていた。
「ねえ、アリエル、僕は最近夢に見るんだ、あの、思い出したくない光景を、何もかもうまくいかないことばかりで、自暴自棄になっていた頃のこととかさ、妹の面倒だって?冗談じゃない、僕は妹をやっかいな存在だって毛嫌いしていたくらいだったんだから、だけどやめた、あきらめにも似た感覚を持って接していただけなんだ、無力だってことを思い知った気がして」
シキがベッドに横になり、静かにみつめるアリエルに振り返る。
「君は若い、だから前を向かなきゃいけないって、そう、親戚のおじさんに言われたよ、そうかもしれないって思ったよ、だけどさ」
そう言いかけてシキは返事もせずぼうとするアリエルを見て言葉を止めた。
「ごめん、アリエルには不快な話だったね、今日は帰るよ、また」
シキは元気なくアリエルの病室を出て行った。
一人になって、静かな病室から外の雪を見ながら、アリエルが独り言のように言葉を発した。
「シキ、私が変えてあげられればいいのに、貴方の、いえ、私たちの夢見た世界を」
そういったアリエルは涙を流した。無力で何もできない自分に、涙するしかなかった。
その夜はいつもより肌寒い夜で、アリエルは寒さで目を覚ます。
時刻を見ると夜中の4時、病院内は静かに静まりかえっている。
カーテンを閉め切った病室の暗さにアリエルの目が慣れてくる、見間違いかとも思ったが、そこに、ベッドの近くに人がいた。
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