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「……!」
アリエルは驚いて身構えた。身体が恐ろしさで硬直した。
「アリエル、大丈夫よ、さあ、こっちにきなさい、案内するわ、貴方の願いを叶える場所に」
それはどこかで聞いたことのある女性の声だった。最近聞いたような、とても以前のような、そんな不思議で、不気味な声だった。
アリエルは促されるままに、車椅子で病室を後にした。そして、その前方を行く怪しげな人物の後をついていく。なぜこんなことをしているのか、アリエルにも理解できなかった。けれど、何故かそうしなければならないような気がして仕方なかった。恐怖で身体が強張り、前方を歩く人物から離れたいのに、離れることができない。
暗がりでどこを移動したかもよく覚えていなかったが、そのエレベーターの前で女性は止まる。暗がりでよく顔が確認できないが、スタイルの良い髪の長い美人に見えた。
「ここよ、ここの最下層の地下へ行きなさい、私が案内できるのはここまで、そこに貴方の求めるものがあるわ」
こんなところにエレベーターなどあっただろうか?病院内を知り尽くしているつもりのアリエルが見たことのないエレベーターな気がした。けれど止められない、そう言われるままに、アリエルはエレベーターの最下層行きのボタンを押した。
エレベーターのドアが閉まる瞬間、見えた、ライダースーツのような衣服で、金髪の女性が、薄気味悪い笑みを浮かべて、こちらへ手を振っている姿が。
ガタン、と鈍い音がする。すぐにでも病室へと戻りたい気分にかられたが、ボタンを押してしまって後戻りができない。病院の地下には良い思い出がない。アリエルは不吉な気持ちでエレベーターが停止するのを待った。
しばらくするとエレベーターが停止し、病院の最下層へ到着した。
キィ……、と車椅子を引いて前進する。そこはなんだか冷蔵庫の中のような寒さで、冬の外とは違う、なにか嫌な寒さを感じた。
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