蜂谷桂介

2/11
前へ
/64ページ
次へ
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃあああああん!!」 玄関の戸を開けるなり叫びだした妹が、俺の部屋へノックもなしに飛び込んできた。 こんな深夜とも早朝ともつかない時間に迷惑なやつ。 「なんだよ、マツコ」 「見ちゃったの!! テケテケ、見ちゃったの!!」 妹のマツコは潤んだ瞳で俺を見つめた。 体は小刻みに震えている。 「テケテケって、確か上半身しかない女の霊だったか。本当に見たのか?」 「お兄ちゃん疑うの!? 本当に見たわよ! ランニングしてるときに……」 言うと、マツコは床にうつ伏せになって、ほふく前進をはじめた。 「こうやってね! 肘だけ使って這うように動いてたの……上半身だけで。あの噂は本当だったのかな……」 「まさか……。何か動物を見間違えただけなんじゃないのか?」 「そ、そうかな。 でも建物の隙間から見えただけだし、距離あったし、怖くてじっくり見たわけじゃないから、本当に見間違いだったのかも……」 「そうだよ。テケテケは都市伝説、いるわけない」 俺はちらっ時計に目を向けた。 午前4時を過ぎている。 「とりあえず一旦寝て――」 「やだよ! お願いお兄ちゃん、学校の時間まで一緒にいて!!」 いつも生意気なマツコだが、涙声で言うと、俺をぎゅっと抱き締めて離さない。 瞼は今にも落ちそうだったが、溜め息とあくびは心の中に留めて、俺はマツコの頭をなでてやった。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加