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その頃カラは3本松のてっぺんにちょうど着いたところだった。
ぴぴぴ、ぴぴぴっ。
何やら小鳥たちが騒がしかった。
「やい、どうしたんだそんなに騒いで」
ぴぴぴ、ぴぴぴぴぴーぴっ。ぴぴ。
「子どもがいない?どれ探してきてやろう。なに、タカよりも良いこの俺の目なら空からすぐに見つけられるさ」
そういってカラはびゅんびゅんと空を駆け始めた。
すぐに小鳥は見つかった。川の側で濡れた姿で休んでいた。
「アヤっ!」
カラはすぐに気づいた。
川の中央でおぼれるアヤの姿。アヤは小鳥を助ける代わりに川に落ちたのだ。
カラはハヤブサよりも早く川に急降下し、一瞬のうちにアヤを川から引き揚げた。
「アヤ!アヤ!大丈夫か」
「ごほごほっ、……大丈夫よ。ありがとうカラ」
「いいんだ」
カラはアヤを抱きしめた。
カラの記憶によみがえる。
「……アヤ、聞いておくれ」
カラの真剣な顔にアヤは黙ってうなずいた。
「……この川で亡くなった子どもの話を覚えているだろう。俺はその亡くなったはずの子どもなんだ。俺がテングとしてここにいるのは誰か一人の命を救うために神様から使いを出されたからなんだ。今、俺はその助けなきゃいけない子どもがお前のことだとわかった。そして神様との約束通り助けた。だから、」
「やめて」
アヤはカラを強く抱きしめ返した。カラはそれ以上しゃべることなくアヤの腕に抱かれて消えていった。
アヤはそれからというもののカラという名のテングの話を周りによく話した。テングの話は語り継がれ、いつしかその話の中のテングは河童になったりもしたが、子どもたちに聞かせる話として、また雨の日の川に入ってはいけないという教訓も含めて、この話がなくなることはなかった。
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