1章 駅 (その1)≪改訂.2014.4.8.≫

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「おれは、ぼちぼちと、バンドのメンバーを探(さが)すよ。 信(しん)も、またバンドやるんだろ」 「まあね、ほかに楽しみも見あたらないし。だけど、気の合う 仲間を見つけるのも大変そうだよね」  純は、同じ背丈(175センチ)くらいの信也の横顔を ちらっと見ながら、信也と仲のいい美樹(みき)を思い浮かべる。  美樹には、どことなく、あの椎名林檎(しいなりんご)に似た ところがあって、椎名林檎が大好きな信也のほうが 美樹に恋している感じがあった。  信也と美樹は、電車で約2時間の距離の、東京と山梨という、 やっぱり、せつない遠距離の交際になってしまった。  美樹も辛(つら)い気持ちを、信也の親友でありバンド仲間の 純に打ち明けてたりしていた。  信也は、そのつらい気持ちをあまり表(おもて)に出さなかった。  信也は、東京で就職することも考えたのであったが、 長男なので両親の住む韮崎にもどることに決めたのだった。  大学でやっていたバンドも、メンバーがばらばらとなって 解散となってしまった。  信也はヴォーカルやギターをやり、作詞も作曲も ぼちぼちとやっていた。純はドラムやベースをやっていった。  純の父親は東京の下北沢で、洋菓子やパンの製造販売や 喫茶店などを経営していた。  いくつもの銀行との信用も厚(あつ)く、事業家として成功している。  父親は、森川誠(まこと)という。今年で58歳だった。  去年の今頃(いまごろ)の6月に、純の5つ年上の兄の良(りょう)が、 ジャズやロックのライブハウスを始めていた。  純はその経営を手伝っている。  音楽や芸術の好きな父親の資金的な援助があって、 実現しているライブハウスであった。 ≪つづく≫ 
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