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「おれは、ぼちぼちと、バンドのメンバーを探(さが)すよ。
信(しん)も、またバンドやるんだろ」
「まあね、ほかに楽しみも見あたらないし。だけど、気の合う
仲間を見つけるのも大変そうだよね」
純は、同じ背丈(175センチ)くらいの信也の横顔を
ちらっと見ながら、信也と仲のいい美樹(みき)を思い浮かべる。
美樹には、どことなく、あの椎名林檎(しいなりんご)に似た
ところがあって、椎名林檎が大好きな信也のほうが
美樹に恋している感じがあった。
信也と美樹は、電車で約2時間の距離の、東京と山梨という、
やっぱり、せつない遠距離の交際になってしまった。
美樹も辛(つら)い気持ちを、信也の親友でありバンド仲間の
純に打ち明けてたりしていた。
信也は、そのつらい気持ちをあまり表(おもて)に出さなかった。
信也は、東京で就職することも考えたのであったが、
長男なので両親の住む韮崎にもどることに決めたのだった。
大学でやっていたバンドも、メンバーがばらばらとなって
解散となってしまった。
信也はヴォーカルやギターをやり、作詞も作曲も
ぼちぼちとやっていた。純はドラムやベースをやっていった。
純の父親は東京の下北沢で、洋菓子やパンの製造販売や
喫茶店などを経営していた。
いくつもの銀行との信用も厚(あつ)く、事業家として成功している。
父親は、森川誠(まこと)という。今年で58歳だった。
去年の今頃(いまごろ)の6月に、純の5つ年上の兄の良(りょう)が、
ジャズやロックのライブハウスを始めていた。
純はその経営を手伝っている。
音楽や芸術の好きな父親の資金的な援助があって、
実現しているライブハウスであった。
≪つづく≫
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