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数年前から、僕はある少女と出くわすようになった。
いや、彼女の声を聞くようになったと言ったほうがいいのかもしれない。
生まれながらにして盲目な僕には何かが見えるといった感覚が理解できない。
ただ、声や匂いから睡蓮が女性だったということを理解したまでだ。
睡蓮とは、僕がいつもの散歩道で出会う女性の名前。
どういうわけか、散歩道の道中にある神社の前にある階段にいくと彼女はいつも僕を待っていた。
その神社は古くからある、かなり小さなものらしい。
目が見えないし、それほど神社を歩きまわったこともないので広さがどれくらいだなんてわからないが、この街の住人に子供の時から聞かされていたからそう記憶しているまでのことだ。
「やっほー。相変わらず独りで寂しそうだね」
睡蓮は僕に笑みを含んだ声音で尋ねた。
まるで、ひとりでいることが嬉しいかのようだ。
そんなに僕が孤独だという事実に喝采する彼女にかつての僕は「うるさい」と反論していたけれど、今となっては伝統芸みたいな彼女の言い回しに馴れてしまった。
しかも、その気さくなひと言を耳にしないと心にもやもやした重みを感じるほどになっていた。
今日、僕は睡蓮と他愛のない話をする。
それが嬉しくて嬉しくてたまらない。
「へらへら笑わないでよ。そういうの失礼だよ」
「ごめんごめん」
軽く謝罪をしてから睡蓮に近づく。
花弁に鼻をつけたような自然体溢れる匂いが嗅覚に染みわたった。
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