50人が本棚に入れています
本棚に追加
一年前の七月七日、七夕。
「おばあちゃん、ゆうちゃんと夕飯食べたら帰ってくるから、夕飯はおじいちゃんと二人きりで食べてね」
私は、祖父と祖母と弟と住んでいる。
父と母は交通事故で何年も前に亡くなってしまったから。
私は浴衣をおばあちゃんに着せてもらって、
「行ってきます!」
下駄を鳴らして明るく家を出て行く。
待ち合わせ場所に、友人のゆうちゃんも浴衣を着て待っていた。
「としちゃん!」
「ごめん、ごめん」
手を振り駆け寄る。
夕方から出掛けて、女同士二人で食事をして花火大会の花火を見に出掛けるデートコース。
実は、彼氏にフラれたの。
サラリーマンの彼氏は東京に転勤。
祖父と祖母と暮らす私が東京には付いてはいけないでしょ。
だから…。
だから、彼氏は二股かけてた別の女性と東京へ行く事になって。
私は、きっぱりとフラれたの。
35歳の私が、そんな事で時間を掛けて悲しんでなんていられない。
だから、今夜は友人のゆうちゃんと七夕祭り。
早い食事を済ませて、河川敷にある花火大会の会場近くへと向かう。
堤防沿いには夜店が並び、私たちは食べたばかりなのに、目移りばかりして歩いていた。
「チョコバナナは定番でしょ?」
「定番はリンゴ飴だよ」
「綿菓子は帰りに買って帰ろっかな~」
「ねぇ、ゆうちゃん。後でかき氷食べようよ?」
……。
「ねぇってば?」
……。
あれ?
あれれ?……。
やだ、嘘でしょ?
私は人混みで流れていく、辺りを見渡した。
ゆうちゃんがいない。
立ち止まり、はぐれてしまった私は、その人混みにグイグイ押されて、携帯電話すらも取り出せなくなっていた。
最初のコメントを投稿しよう!