1、七夕祭り

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「友人とはぐれて、電話しようかと思ってたら、あの人たちに絡まれちゃって…」 「俺もはぐれて、電話しようかと思ってここへ来たんだ。…偶然だね」 「は、はい…」 もっと間近で見たら、本当に整った顔立ちをしていて、私は急に恥ずかしくなって下を向いた。 す、凄くカッコいい。 こんなカッコいい男の人、自分の近辺で出逢った事がない。 「しばらくここに居てあげるから、ほら、早く電話したら?」 「は、はい。すいません」 私は、ゆうちゃんに電話する。 「としちゃん、どこに居るの?私は、すぐ側の仮設警備室の前に居るよ」 「なんだ、そんな近く?じゃあ、今すぐ行くよ」 そう言って、私は電話を切る。 「見つかったみたい?」 その男は、頭を傾げて優しく笑う。 「仮設警備室の前って」 私は巾着袋を握りしめた。 「そっか、良かったね」 「はい。じゃあ、私、行きますね。助けてくれて本当にありがとうございました」 「…うん、気を付けてね」 そう、優しく言われて。 私はあっさりと頷き、足を進めた。 何となく、頭の中で一瞬よぎった。 もう、この人には二度と会えない。 …二度と会えないって。 ちょっとだけ躊躇いながら、後ろを振り返る。 それでも、その場にまだ居たなら…。 その男は、タバコを吸って私の姿を見ていた。 見ていたから、目が合って、私はその人の元へと戻った。 ゆっくり、下駄を鳴らして、花火の上がる中。 「あれ、どうしたの?」 「あの、私。今夜助けてくれたお礼がしたいから、図々しいお願いしてもいいですか?」 自分でも、こんな今日出逢ったばかりの見知らぬ相手に、ここまで積極的に声を掛けれるだなんて、思わなかった。 私のそんな言葉に、その男は一切動揺する事もなく、聞き返した。 「いいよ、気にしなくて。ところでお願いって何かな?」 …また会いたい。
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