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「暑い」
あてもなくただ猛暑の中をさまよっていた。遊びに誘おうと友人たちに電話をかけたものの、全員が全員留守だった。だから、あてもなく夏の陽射しを浴びていた。
動機は暇であるから。幼い少年を外に駆り出すには充分な理由だった。
「坊やは一人かな」
暑さにやられたせいなのか、それとも少年の注意不足だったのか。人っ子ひとりいやしない道に一人の老人が現れた。
「おや、感心せんねえ。最近の子供は質問に答えることもできないのか、んん?」
少年が無視を決め込んだのは、「知らない人にはついて行ったらいけません」と学校の教師が口を酸っぱくして言っていたのを思いだしたからだった。
「なるほど最近の教育は徹底しているらしい。なに、では名乗られてもらおうか。私はタドラス・リモルトだ。坊や、君の名前は?」
「……御剣セイカ」
「おー!グレートグレート!とてもいい名前だ!さて、これで私たちは知り合いになった。そこで、だ!」
年甲斐もなくど派手なパンツのポケットに手を突っ込むと、タドラスはセイカに透明な石を差しだした。
「ビー玉……?」
掌で太陽の光を透過する石は丸く薄い光を帯びていて、一見して大きなビー玉のように思えた。首をかしげるセイカに、
「ノンノン、ビー玉などというガラス玉と一緒にしてはいけない。いいかいセイカ君、これはとても価値のあるものだ。そこで、お近づきの印に君にこれをあげよう」
「ほんと!?」
「嘘じゃないとも。ただ一つだけ約束だ」
「約束?」
「肌身離さずもっていること。できるかな?」
「できるよ!」
「よし、いい子だ。それじゃあ指切りをしよう」
タドラスが小指をだし、倣って同様にセイカも小指をだした。指を絡め、
「指切りげんまん嘘ついたらムーンサルト一万回かーます!指切った!」
「え?むーんさると?針千本じゃ……」
「それでは少年よ!さらばだ!」
颯爽と走り去っていくタドラスの背中を、セイカはしばらく見つめていた。
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