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「暑い」
夏も目前とあって、教室内は暑かった。騒ぐ元気がないのか、それとも夏休みに向けて体力を温存しているのか、いつもならば授業中だろうがべちゃくちゃ喋っていた生徒たちが静かに黒板に向かっていた。
ただ一人、セイカだけは机に頭を垂れて窓の向こうを眺めていた。
(夏)
といえば学生に限らず若者たちに好まれた季節と言えるだろう。暑いとはいえど、はしゃぎたい盛りの若者たちにはさほど関係がない。
暑ければ海でもプールでも、かき氷でもスイカでも夏の暑さをしのぐものはいくらでもある。しかし、セイカにとって夏休みという期間は憂鬱でしかなかった。
なんせ小学校を卒業して以来、友人らしい友人はいないのだ。漫画やゲームを楽しむにしても孤独感を紛らわせるには不十分であった。
「セイカ君!この問題を解いてもらいます!だから寝ちゃ駄目ですよ!」
静かすぎるのも難なもので、唐突に担任の竹村夢美が声をあげたために教室はさらに静まり返ってしまった。
「うう、起きて下さいよ……」
自分に教室中の視線が集まっているのがわかった。しっかり静かだった教室も、「また御剣かよ」、「本当にあいつうぜーよな」などとぼやき始める者がでてきた。
「……それじゃあ荻原君、ここお願いしまぁす」
すっかり寝ている――起きているが――セイカに夢美は気を落とし、荻原真琴が次なる標的となった。
「――です」
「はぁい、正解です。さすが荻原君ですね。それじゃあ……」
(やべ)
はっきり聞こえていた夢美の声が次第に小さくなっていく。なんとも言えない暑さに肥大化した睡魔がセイカの意識を揺さ振る。
(もう授業終わりなのに)
今の授業が六限目。これを終えれば学生の業務は終わりである。セイカは薄れていく意識の中、六限終了のチャイムを聞いて眠りに就いた。
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