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セイカが目を覚ましたのはちょうど部活動が終わった頃で。六時を回ったせいか外は暗く、校内を徘徊する空気はいつも以上に怪しげに感じられた。
「……はぁ、誰も起こしてくれないのか。まあ嫌われてるし仕方ないよな」
帰宅の準備を、と鞄に教材を詰め込む。さあ帰る準備は整った、と思えば音一つなかった教室で声らしき音が聞こえてきた。
「……クソカップルめ」
そうない話ではない。学生故に、恋仲にあると必ず“場所”というものに悩む。結果野外やらトイレやらを利用する若者が多いのだが、
「……カップルがいちゃこらやってるわけでもなさそうだな」
耳を澄ませばどうもカップルのそれとは違うようである。足早に教室をでたセイカは小さな音を頼りに、同じ階にある2-Fまでたどり着いた。
近づけば近づくほど、声は大きくなる。その声がクラスメイトの荻原真琴のものだと勘づくのに、そう時間を要することはなかった。
(どうするか)
ドアのガラス部分から教室を覗けば、やはり荻原真琴がいたのだが他に男子生徒が二人いる。なるほど学園の『プリンス』は男にも好かれるらしい。荻原は男子生徒に強姦されかけていた。
(顔がいいってのも困りもんだな)
覚悟を決めて、ドアを開け放つ。それに気づいて男子生徒が振り返った。
「……んっと、興奮しすぎて白目剥いちゃってる感じですか?」
男子生徒の顔には妙な凹凸があり、白目が赤く充血している。ホラー映画にも劣らない恐怖に、思わず身震いをするセイカだったが体は自然と動いていた。
近場の椅子に手を伸ばすと、椅子を力いっぱい握りしめて男子生徒に向けて走る。
「骨折とかしても悪く思うなよ!」
ある程度距離を詰めたところで、セイカは手に持った椅子を男子生徒に投げつけた。不格好な放物線が途中で途絶え、今が好機とセイカは荻原を引っ張ってひとまず教室から抜けだした。
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