57人が本棚に入れています
本棚に追加
既に日が傾き、時計の針が6時を指した頃。俺はまだ冷たい風に身を震わせながら家路に着いていた。河川敷の近くなので殊更寒さが強く感じられる。
「…あれ?」
自宅が見えた時、俺はある違和感を覚える。ガレージに父の車が入っているのだ。普段父はもっと遅くまで働いているため、この時間に帰っているのは珍しいことである。風邪でも引いたのだろうか?
「ただいまー」
「おう、お帰り悠斗。今日は父さんの方が早かったな」
「一体どうしたの?こんな時間に帰ってくるなんて体の調子でも悪いの?」
「父さんを侮るなよ息子よ。健康で風邪知らずなのは父さんの数少ない自慢の一つだ。それに仮に風邪を引いたとしても、這ってでも出勤してやるぞ」
職場の人に移るからそれはやめて欲しい。だが、これで父が体調不良で早退したという線が消滅した。
「社会人だとそう簡単に休む訳には…と、その話はいいな。実はお前に確認しておきたいことがあるんだ」
父はそう言うと、真剣な面持ちで俺を見据えた。どこにでもいそうな平凡な顔立ちだが、その目力には有無を言わせぬ迫力がある。…俺、何か悪いことしたっけ?成績も普通だし、進路を決めるのはまだ早い気もするのだが。
「まず、これを読んでくれ」
父は出勤用の鞄から一枚のコピー用紙を取り出した。俺はそれをとって一通り目を通す。そしてその中の一つの単語が目につき、俺は思わず父を見た。
「……ホストファミリー?」
「そう。端的に言うぞ悠斗。3日後、我が家にアメリカから留学生がホームステイにやってくる。今日はそれをお前と母さんに確認するために早く帰ってきたんだ」
さらりと重要なことを言った父。俺はその言葉を反芻し、驚愕の叫びを上げた。
最初のコメントを投稿しよう!